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2009年7月 9日 (木):「主観」と「客観」

27歳のとき、会社を辞めて、最初の著書『レディース・コミックの女性学』を刊行しました。その直後、コメント取材に来てくださった『日経ウーマン』誌の当時の副編集長と話が盛り上がり、取材のあと2時間ほどおしゃべりしました。それをきっかけに、同誌をはじめ、日経新聞、日経ビジネス、日経流通新聞(当時)で定期的にお仕事をさせていただくようになりました。

私の前職は、少女漫画&女性向け漫画誌の編集者です。取材方法や文章表現のトレーニングを受ける機会は少なかった。つまり私にとっては、日経グループが"作家修業"の場となったわけです。
特に、私の担当者となった記者の一人が、ビシビシと鍛えてくださいました。たとえば1600字のコラムなのに「2400字、書いて来い。書き上げた原稿は持参しろ」。言うとおりにすると、私の目の前で、原稿に赤字を入れていって、1600字に削る。それは「2400字分の取材をして、その中から1600字分のエッセンスを取り出すべし」という極意なんですねえ。
もう一つは「数字でとらえろ」。たとえば「店内は広々としており、内装も豪華だが、意外にリーズナブルなレストラン」とい表現は×。「店舗面積△平米に△卓とゆったりした造りだが、客単価は△円と意外に安い」が○。

そこで感じたのが「編集者は"主観"で仕事をするが、新聞記者は"客観"が命なのだなあ」でした。
編集者時代、先輩たちに「バーゲンに行くのも仕事のうちだよ」と言われました。読者層である女性が、デパート何をどう買っているか。その様子を肌で感じて来なさいと言うのです。読者のニーズを、「自分の肌で」、つまり主観でとらえるのが編集者の仕事の一つ。今、この雑誌に必要なのは、あるいは、その漫画家の力をさらに引き出すためには、スポコン漫画か、それとも学園ラブコメか。判断の基準は、「肌で感じてきた主観」なのです。

一方、新聞記者は。たとえば各デパートの売り上げの比較、フロア面積を広げたのは何売り場か、新たに作られた商業施設が人の流れをどう変えたかなどという、客観的な事実=ファクトを収集し、提示するのがお仕事です。バーゲンでの雰囲気を味わうとしたら、それらの事実の裏づけをするためでしょう。
作家たる私は「主観」で生きておりますが、それを読者に納得してもらうためには、客観的なファクトの裏づけが必要です。日経グループでのお仕事は、お金をいただいて授業を受けているようなものでした。

週に一度の専門学校の授業では「新聞を読め」と生徒によく言います。社会人として必要な素養だから……ではありません。連想力、発想力、言語化能力を鍛える基礎トレーニングになるからです。そのあたりは、某社から出していただく著書で縷々語ることになっておりますので、ここでは深入りいたしません。

今、新聞が売れず、危機的状況だと言われます。その対策としてか、新聞の"雑誌化"が進んでいるように思います。外部の執筆者、しかもタレントなどプロではない書き手によるコラム、全面1ページを使った?な連載漫画など。しかし「今、読者が求めている書き手や漫画を、外部から『集』めてきて、一つの形に『編』み上げる」のは、編集者の仕事です。出版社にはノウハウの蓄積があり、編集者もそれなりのトレーニングを受けています。新聞が雑誌化しても、うまくいくとは思えません。

それに、これが最も重要ですが、人々が求めているのは「ファクト」ではないでしょうか。特に新聞の読者は、客観的な事実をベースに、自分なりの主観を練り上げたい人たちだと思います。
若い女性向けのファッション誌では、「モデルのA子ちゃんが、この夏に買った服」を特集したりします。読者は、主観的なトレンド分析よりも、「A子ちゃんが買った服」というファクトを求めているのです。ずいぶん前から、ファッション誌はカタログ化しており、縮小した商品写真をスペースいっぱいに詰め込んでいます。読者は「今、どんなバッグが売られ、たくさん買われているか」というファクトをもとに、「自分の欲しいバッグ」という主観を練り上げるのです。

インターネットが普及する前、友だちと食事に行く店を選ぶには、雑誌やテレビの情報と口コミでした。雰囲気やおススメ料理は紹介されても、座席数や飲み物を含めた客単価はよくわからなかった。現在は、店舗面積からサイドメニュー、店長の性格やにぎわう時間帯までを考慮に入れて、店を選ぶことができます。レストラン一つ選ぶのにも、みんな多くのファクトを欲しがるのです。

主観と客観が入り乱れているこの時代に、ファクトを収集するノウハウを持っている新聞には、大きな可能性があると思います。外部の執筆者による主観的なコラムや漫画よりも、記者が現場で感じていることを知りたい。自信を持って、「ファクトの裏づけがある主観」を提示していただきたいものです。

おっとっと、熱く語ってしまいましたぜ。何しろ今日は、パワーをたっぷりチャージした日。ランチは大切な親友と、プロレスラーが経営するレストランで「牛鍋」。オプションの卵もつけて、アミノ酸を補給。その後カフェで2時間のおしゃべり。それからアカスリと岩盤浴。コリアンタウンでキムチ1キロと十二冊の本を購入して帰宅。今日もまた、お酒なしでの就寝です。おやすみなさい。

7月 9, 2009 日記・コラム・つぶやき |

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