めでたくお開きとなった、ゆうべの宴。女子部屋で寝床に横たわり、眠りにつく。ふと目覚めたら、3時。いきなり、思考が動き出しました。
「私はなぜ、ここにいるんだろう?」
頭がぐるぐる動いて、眠れない。こういうときは、「言語化トレーニング」をするに限ります。わが著書にて詳述する予定ゆえ、多くは語りませぬ。ともあれ、持ち歩いている手帳に、もろもろを、書き付ける。
やがて起床時刻と定められた8時が来て、朝食はゴルゴンゾーラと温泉卵のシーザーサラダ、930円の高級パンに、高級ジャム。さらに牛乳寒天。いずれも絶品の手作り。
それから「勤労奉仕」が始まります。ランニングウェアで、庭仕事。私も微力ながら働いたあと、休憩しようと玄関の敷石に腰掛けた瞬間、スギナの群生が、目に付いた。スギナを掻き分けてみたら、実はハーブ花壇だった。
スギナを抜いた。また抜いた。さらに抜いた。
抜くうちに、頭の中で、「今、なぜ、私がここにいるか」の答えが明瞭に浮かび上がってきた。
桜マラソン大会の行なわれる街で、スギナを抜いた日々。そして今、ここで、スギナを抜く私。
今まで乗っていた鉄道の「特急スギナ線」は、ここで終点なんだなあ。これからは、次の電車に乗るんだなあ。
勤労奉仕の次は、トレーニング。今日は「ゆるゆると、森林浴を楽しむのが目的」と言われてはおりましたが、覚悟しておりました。だって私以外のメンバーは、過酷なトレイル・ランニングや、100キロ超のウルトラマラソンを完走したことがある方々ばかり。完走率4割という「富士登山競争」の常連フィニッシャーが大半です。
それに睡眠不足で走るのは、もう慣れている。それに、ゆうべの宴の感触では、こんな私を邪魔者と考えるよりも、「微笑ましい、手助けしてあたげたい」と考える余裕をお持ちの方々のもよう。
借りたばかりのボトルホルダーの使い方も、丁寧に教えてくださる。まあ、なんとかなるでしょう。
最初に、水の飲み方を教わった。スポーツドリンクの粉末を溶かしこんだ水。
「キャップを歯で噛んで引っ張ってゆるめ、飲み終わったら、ほっぺたで押して戻すんだよ」
皆様の前で、歯をむき出しにして、キャップを引っ張る私でございました。
次に、足運びや目配りの注意点を教えてもらった。
「そろそろ、出発しようか」
いきなり急坂が始まった。走るどころではない角度。そろそろと、歩き出す。他の登山者よりも、かなりの早足です。
汗が吹き出す。
足が重い。
心肺が悲鳴を上げている。
だけど、私は知っている。
この苦しさは、そう長くは続かない。
少しずつ、楽になっていくはず。
すべての思考は停止。
ただ足を、上へと進めるだけ。
そう思い定めた瞬間。
「私はなぜ、ここにいるんだろうと思っているだろうけど」
頭上から、いきなり声が降ってきた。先頭の某様が、私を見下ろして、笑顔を向けている。
「そう思っても、苦しいのは今だけで、だんだん、楽になるから」
「今までずっと、『私はなぜ、ここにいる?』と思ってばかりの人生を送ってきたから平気!」
私も笑顔を向けた(つもり)。
まだ言葉にはならないけれど、何か、意味があるような気がするよ。
眺望の開ける稜線で、某嬢が背負ってきてくれた「揚げ饅頭」と、富士山。たまたま居合わせた、同行者の知人からバナナ・バームクーヘンをいただく。写真を撮りあう。富士山くっきり。
覚悟していたよりも、楽なコースだったけれど。
案の定、コースはじりじりと延び、「モリアオガエルのいる池」へ、思わぬ寄り道も。初のトレイル・ランニング(トレラン)。視点をうまく定められず、目が疲れ、頭も疲れた。睡眠不足も効いてきた。うつむきがちになっている私に、A嬢が「大丈夫?」と一言。おかげで電池がチャージされた。
ここは、青木が原樹海。来るたびに、「スポンジに、いらないものを吸い取ってもらえる」ような気がします。
あちこちで口を開ける風穴や氷穴。溶岩が焼き尽くした木々の痕跡を示す穴。溶岩にさえぎられて根を深く張れない木々が作り出す、でんぼこの激しい地表。
屋久島もかくやと思わせる地衣類が、みるみるうちに侵食し、養分を奪い取ってゆく倒木。道ばたに落ちている溶岩にも、たくさんの空気穴があり、持ち上げてみると、軽い。
それぞれが、大量の空気を含んだ物体が、スポンジとなって、私を浄化してくれる。
歓喜に包まれて、走る。
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